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あなたは鮭ではありません

私は息子を三ヶ月に一度歯科健診に連れて行ってフッ素塗布とかシーラントってやつ(歯の溝を埋めるもの。マニキュアみたいなものらしい)をやってもらっています。
虫歯治療はかなりストレスを伴うものなので出来れば虫歯ゼロで育ってほしいし、だから予防のために通うのです。私が子どもの頃通っていた歯医者さんは総白髪のガリガリに痩せた先生が「痛いやろうなあイッヒッヒッ」とかニヤニヤしながら歯を削るようなところだったので尚更そう思います。
ちなみにその歯医者の待合室は楳図かずおの漫画が充実していて、あそこに通うあいだに『赤んぼ少女』を読破できたことだけは唯一良かったと思っています。

おかげさまで私の息子はいまのところ虫歯もありませんし、だから痛いやろうなあイッヒッヒッを経験したことがないくせに、いつも歯医者を異常に怖がって逃げるんです。え、あんた平成の脱獄王? って思うぐらい逃げる。毎回待合室で大捕物です。寺地捕物帖。
「痛いことしないよ大丈夫だよ」って前日の晩から言い聞かせるのですが「いやなのォー!とにかくいやなのォー!」の一点張りです。あんな壁紙がピンクで天井から飛行機のモビールがプラプラしとるようなファンシーな歯医者のどこが怖いんじゃ! って怒りそうになったんですがここはぐっと堪えて「一体あの歯医者のどこが怖いのじゃ、この餅フェイスめが。申してみよ」と優しく尋ねたら「……せ、先生がッ!」という答えが返ってきました。
その歯医者さんは男性の先生が三人ぐらいいるんですけど何故か揃いも揃ってラグビーの選手みたいな体型の、日常的に川で熊と鮭を奪いあっていそうな雰囲気の屈強な人たちで、どうやらそれが怖かったらしいのです。そうだったのか。うん、わかるよ。君のお父さんとはあまりにタイプが違うもんね。
「大丈夫です、あなたは鮭ではありませんから食われたりしません。ご安心なさい」という趣旨の説得をして診察台に送りこみましたが、やはり三歳児にそんな説得は通用しなかったようで「気をつけ」の姿勢で号泣してました。そして私はそれを見て爆笑してまいラグビー選手に二度見されました。
でも診察が終わる頃にはやる気元気おもちみたいなテンションで「ぼくがんばったー!」ってガッツポーズきめてたのでまあとにかく良かったです。また三ヶ月後に同じようなやりとりをするのでしょうが、いつかは泣かずにできるようになると信じております。おわりです。