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妖怪はそこにいる。

息子(3歳。顔が餅みたい)が鼻風邪をひいて、始終鼻がつまってて「お豆食べる」と言っているのに「オバベ・バベル」と聞こえちゃうという状態で、このままだとコミュニケーションが著しく阻害されるちゅうわけで最近のわたしは家ではもっぱら鼻水を吸引する器具を片手に息子を追いかけ回してます。
怯えて逃げ惑う子を執拗に追い回すわたし(髪ボサボサ)を見て夫が「出た!」と言うんです。「出た!妖怪鼻水吸い婆ァや!」
いやいや。いやいやと。まずそのひねりのないネーミングはなんだいと。しかも恋女房を妖怪扱いとは恐れ入ったねお前さんと。そう思ってから改めて、いやいやと思い直したのです。今度は自分自身に対して。
妖怪扱いが嫌だというのは、妖怪を人間より下等であると思っている証拠ではありゃせんかと。

たとえば「天使や! 鼻水界の天使や!」って言われたら多分そこまで悪い気はしなかったでしょうし、だとしたらわたしは天使・人間・妖怪の順に尊いと思ってるわけで、なんだかそれってちょいといやらしくないですか?
ここで言ういやらしいとはエロいという意味ではなく浅ましいという意味なので、何人たりともこの箇所で興奮することは許さんぞよ。

それに、思っているより人間と妖怪の境目って曖昧なんじゃないかなって。息子を病院に連れて行く最中に考えたんです。わたしそう考えたんです。日常接する人たちの中に、もしや結構な数の妖怪が紛れているんじゃないかしらんって。
そう思って病院に着いたら、ほんとうにたくさんいました。妖怪。そこは内科と小児科と皮膚科が合体してる病院ですから、老いた妖怪から赤子の妖怪までバラエティーに富んでます。パンチパーマの妖怪もいる。待合室の本棚の『日本のわらい話』という本の表紙を見て「ママ! 日本のつらい話やて!」と叫んでる小学生の妖怪もいる。さしずめ妖怪早とちりってところでしょうか。

でもひときわ目をひいたのは、会計を終えて帰ろうとしてるお婆さん妖怪でしたね。玄関に立って「うちのクツないねん! クツないねん!」って大騒ぎしていたから。
誰かれ構わずクツないねん攻撃かましてそりゃあ目立ってたよ。わたしはこいつぁー妖怪クツ隠しの仕業だわと思って一緒に探してあげたんですけど、しばらくして妖怪クツないねんが「よう見たらあったわ」って言って黒いサンダル履いてスタスタ帰っていったもんで、なんだよあんたほんとうは「妖怪よう見たらあったわ」だったんだねって思ったし、一緒にクツ探してるあいだに息子がスリッパをパンのようにかじっていたことに気付いて妖怪発狂寸前になっちまいましたよね。